「七夕だから一緒に過ごそう♪」
って約束してた。彼は
「カレー作って待ってるから」
って言ってくれてた。
だから、定時きっかりに帰るのを楽しみにしてた。

そしたら彼からメール。
「近くまで来てるから終わったら電話して」
?…カレーは?ま、いっか。食べて帰るのかな?

彼が待っている場所まで行くと、彼の様子がおかしい。
泣いたような目、拒絶するような雰囲気。

「何かヘン…どうしたの?なにかあった?」
「うん。」
目も合わせない。
イヤな予感。

「…もしかして、今日来ちゃダメとか、そういうこと??」
「…うん。」
「なんで?」
人通りが多くて、彼の言葉が聞き取れない。
ただ
「好きになってくれるのは嬉しいんだけど、庵主さんの気持ちが強すぎて、俺には受け止めきれないんだよ」
そんなようなことを言っていたと思う。

『天地がひっくり返る』ってこういうことだと思った。
とにかく、静かなところに行こうと、三越の中の喫茶店に入る。
彼の言葉をきちんと聞かなければいけない。
だから、どんなに怖くても薬は飲まない。

オーダーが済んだあと、私は沈黙して彼の言葉を待った。
でも、何も言わない。
怖くて、これから別れ話が始まって彼にもう会えないと思うと本当に怖くて、涙があとからあとから流れた。

彼にどうしてなのか訊きたくても、訊いたら彼の別れ話が始まってしまう。

怖くてただ泣く私に、彼は何も言わなかった。
ときどき、もらい泣きをしているようだった。

三十分ほどそうしていただろうか。
その緊張感に耐えられなくなって、私は千円札を置いてお店を出てしまった。

死にたい、ってホントに思った。
交通量の多い交差点にふらふらと入っていったけど、誰も轢いてくれない。

部屋には帰りたくない。
彼の部屋にも、もう行けない。

私の足はお寺に向かっていた。
誰でもいいから話を聞いて欲しかった。
どうしたら彼を取り戻せるのか、彼と別れないで済むのか、教えて欲しかった。

でも住職はお留守で、私はお寺の願掛けのお地蔵さまの前で、泣きながら
「お願いだから彼を取り戻してください、お願いだから…」
と声にならない声で何度も繰り返した。
いつも二人で手を合わせていたお地蔵さま。

その間、彼から何度か電話が入った。
怖くて出られなくて、留守電には心配そうな声で「庵主さん!どこにいるんですか!?電話ください」と入っていた。

私は二人のことを知っている会社の友人に電話し、話を聞いてもらった。
彼女は
「私も、さっきまでの二人の話を聞いてたら彼が突然そんなこと言い出したのは納得いかない。
でも、逃げてても何もわからないでしょ?
彼の話を聞いてあげようよ。こうして彼から逃げてたって状況は変わらないんだよ?
彼、まだきっと庵主さんのこと捜してるよ?」
説得にしたがって、私は恐る恐る、彼に電話した。

私を捜しまわっていたのか、彼は電話の向こうで息を切らしていた。
「庵主さん!?良かった〜!!今どこにいるの!?」
彼は、私の家の最寄駅まで行って、私を捜していたのだった。

友人が駅まで送ってくれて、私は改札前で待っていた彼と再会した。
彼は心底安心したように、私の存在を確かめていた。
お店で話ができる状態ではないので、私の家に向かう。

その道すがら、彼はポツポツと話し出した。

その話によると、引越しの子(S)から午前中電話があったとのこと。
そのSの話によると、土曜日に女性の声で「男と別れろ」という内容の留守電が入っていた、と。
Sが仲良くしている男性は彼くらいしかいないので、彼に連絡したらしい。

それを聞いて、彼は一瞬私の仕業ではないかと思ったと言う。

「もしかして、それが私だって言うの!?声聞いてみればいいじゃん、NTTに通信記録でも何でもとってもらえばいいじゃん!」
「留守電はもう消しちゃったって・・・」

私はもちろん否定した。
彼は信じてくれた。
それはそうだ。
私はSの狂言である可能性も疑った。
けど、口には出さなかった。

「よく考えれば庵主さんだとはどう考えても思えないし不可能だと思った。
でも、土曜日の庵主さんの精神状態ならありえないことじゃないとも思った」と彼は言った。

「でも、その話を聞いたとき庵主さんを疑った時点で、俺はもう付き合えないと思った。
それが庵主さんであろうとなかろうと、俺は庵主さんを疑ったんだから。」

「庵主さんと一緒にいて、最初は楽しかった。でも、だんだん怖くなってきたんだよ。だから、今日はおわかれするつもりで来た。でも…」
「でも?」
「…でも、できないんだよ。泣いてる庵主さん見てたら、言えないんだよ。
泣いてる庵主さんがかわいくて、俺は今までこの子の何を怖がってたんだろうって、庵主さんのこと怖がってばかりで、何も見てなかったんだよね?」

家に着いて、話を続ける。

「庵主さんが喫茶店出ていったあと、追いかけたんだけど見つからなくて、
三越の周りずっと捜してたんだ。
そしたら救急車の音がして…、まさかとは思ったけど、
庵主さんだったらどうしようと思って見に行ってきいたら、
おばあさんが気分悪くなっただけだって担架で運ばれてきて…。
そのとき思ったんだよ。
“別れたい”って言ったあとで、俺はやっぱり庵主さんのこと好きだった、って気づいたんだよ。」

私も彼も泣いていた。
私はただ、どうして自分が彼をそんなに追い詰めてしまったか、それをひたすら泣きながら謝った。
自分でもコントロールできないくらい好きで、そして不安だった。
だからいつも一緒にいたくて、彼を束縛して、怖がらせた。

「私は、どうしたらいいの?」
彼は泣いていて、困ったような笑顔を向けた。
「ちょっと待って、今考えられない…」

私は、彼が探している間何をしていたのか、彼に話した。
そして、彼のことを好きになって、支えたいと思った一番初めのころの気持ちを彼に話した。

彼が落ち着いてきたので、もう一度訊いてみる。
「私は、あなたのそばに居てもいいの・・・?」
彼は
「居てほしいけど、ヒドイ事言ったし・・・一緒にいてくれる?」
「私は、あなたのそばしか居るところなんて無いよ!」

そして二人で号泣。

落ち着いてから、彼は「どうしよう」とつぶやいた。
訊くと、Sから電話を受けてSの家へ行ったのだという。
そこで、やっぱりSは彼のことを好きだと知ったという。
彼もうすうす気づいてたけど、今までなあなあにしてきたのだと。
Sに「今後どうしたいか」と聞いたら、
彼女は「今までどおりでいい」と言ったという。

「そのときは、庵主さんと別れるつもりでいたから…でも、結果180度変わっちゃったじゃん。だから何て言おうかと思って…」
「それはもう少し元気になってから、あなたが決めればいいんじゃない?」
と答えた。

「『トゥーウィークス・ノーティス』みたいだね。」
と彼が言った。
先月、彼と一緒に見た映画だ。
「“やめる”って決めてから“好きだった”って気づくのが。男女逆だけど。」
「あなたがサンドラ(・ブロック)で私がヒュー(・グラント)?」
じゃあ、さしずめサンドラの後任の金髪美人がSだろうか。

結果オーライだから良かったけど、ホントに長い一日だった…。
ショックで死ぬかと思った。
死のうとも思ったし。

でも、彼のいろんな気持ちが聞けてよかった。
私も、彼を好きになった初めのころの気持ちを思い出したし。
私も変わらなきゃ。
もっと強くなって、自信を持って。
二度と彼を泣かせない人になろう…☆

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